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世界で初めて準結晶におけるトポロジカル磁気秩序を発見― 準結晶の磁性とトポロジーを組成により制御できることも発見 ―

更新日:2021.09.03

世界で初めて準結晶におけるトポロジカル磁気秩序を発見

準結晶の磁性とトポロジーを組成により制御できることも発見

本学大学院工学研究院基礎科学研究系の渡辺真仁教授が主宰する固体物性理論研究室は、準結晶*1における磁気長距離秩序*2を理論的に発見しました。また、トポロジカルな磁性状態であるヘッジホッグ状態が準結晶で実現可能であることも世界で初めて理論的に発見しました。この発見は、物性物理学において革新的な研究成果であり、今後さらに研究が進展することで物質の新機能の開拓につながることも期待されます。

ポイント

  • 準結晶における磁気長距離秩序を理論的に発見
  • トポロジカルな磁性状態であるヘッジホッグ状態が準結晶で実現することを世界で初めて発見
  • 希土類系準結晶の磁性とトポロジーを化合物の組成により制御できることを発見


通常の結晶では原子は周期的に配列していますが、周期性をもたない原子配列をもつ結晶が存在することが1984年に発見され、そのような新たな結晶構造をもつ物質群は準結晶とよばれています。準結晶の特異な結晶構造のもとで、どのような電子状態が実現するかは現在もよくわかっておらず、その解明は物性物理学のフロンティアとして注目を集めています。特に、準結晶の3次元結晶構造のもとで磁気長距離秩序が実現するか否かは未解明の重要な問題でした。今回の発見は、希土類元素のテルビウム(Tb)からなる準結晶Au-SM-Tb(Auは金、SMはSi, Ge, Sn, Alなどの元素)のTbの磁気モーメントがどのような向きで配列すると最もエネルギーが下がるかを理論計算することにより得られました。



理論計算の結果、上図(a)のように各20面体の頂点に位置するTbの4f電子の磁気モーメントが20面体の外側を向き、一様に配列した状態(磁気長距離秩序)が基底状態として実現することがわかりました。また、この20面体を覆う外向きの磁気配列をヘッジホッグ(ハリネズミの意味)状態とよび(図(b))、トポロジカル数*3+1で特徴づけられる(図(c))新しい磁気秩序状態を形成することもわかりました。さらに、準結晶Au-SM-TbのAuとSMの組成比を変化させることで、様々な磁性とトポロジー状態を生成できることもわかりました。

この発見は、希土類系準結晶の磁性の研究にブレイクスルーをもたらすものと期待されます。特に、本研究により理論的に予言された新しい磁性状態を実験により観測する研究の進展が期待されます。今後、希土類系準結晶の研究が活発に行われ、新しい磁性やトポロジカル創発電子物性の解明、ならびに物質の新機能の開拓につながることも期待されます。


なお、この研究成果は、2021年9月3日(金)午後6時(日本時間)に英国の科学オープンアクセス誌「Scientific Reports(Nature Publishing Group)」に掲載されます。


*1 準結晶:周期結晶では許されない回転対称性をもつ結晶構造をもつ。準結晶は1984年にイスラエルの化学者?物理学者であるダニエル?シェヒトマンにより発見され、同氏はこの功績によりノーベル化学賞(2011年)を受賞している。
*2 磁気長距離秩序:電子の磁気モーメントがある方向に揃って結晶全体にわたって秩序化した状態。周期結晶において磁気モーメントが一様に配列した強磁性秩序や、反平行に配列した反強磁性秩序が実現することはよく知られている。
*3 トポロジカル数:図(b)の20面体の頂点のすべての磁気モーメント(矢印) の矢尻を束ねたときに矢の先が何回球面を覆うかを表す量。図(c)のようにヘッジホッグ状態は1回覆うので、トポロジカル数は+1となる。


■ 論文の詳細情報


タイトル “Magnetism and topology in Tb-based icosahedral quasicrystal”
著者名 Shinji Watanabe
雑誌 Scientific Reports
DOI 10.1038/s41598-021-97024-w

※ 本研究は JSPS科研費JP17H03379, JP19KK0070の助成を受けたものです。



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<研究内容に関すること>
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