水と酸素から過酸化水素を生成する高性能光触媒の開発に成功
― 次世代燃料の製造プロセス開発に向けて ―
九州工業大学大学院工学研究院の横野照尚教授(研究代表者)、豊田工業大学大学院工学研究科の山方啓准教授、三菱ケミカル株式会社及び海外の研究機関の研究者からなる国際共同研究グループは、太陽光を利用して、水と酸素から過酸化水素を生成することができる高性能光触媒(Sb-SAPC光触媒)の開発に成功しました。過酸化水素は次世代燃料電池の燃料や水素に変わるエネルギーキャリア*1として注目されており、本研究成果は、将来的に再生可能エネルギーを利用した新エネルギー社会の実現への貢献が期待されます。
ポイント
- 太陽光を利用して、水と空気中の酸素から常温常圧で過酸化水素を選択的に高収率で生成可能な光触媒の開発に成功した。
- 過酸化水素の工業的製法であるアントラキノン法と異なり、高価な触媒や高温高圧などの厳しい反応条件は必要としない。
- 反応に必要な条件は、光源として地球上から枯渇することのないエネルギー(再生可能エネルギー)である太陽光のみ。
現在の過酸化水素の主たる工業的製法であるアントラキノン法は、高純度な過酸化水溶液を得ることができる反面、高温高圧などの膨大なエネルギーコストに加え、高価な原材料や触媒が必要であるといった課題があります。この課題を解決するため、再生可能エネルギーである太陽光を利用した過酸化水素の生成システムが注目を集めていますが、今回、本研究グループは窒化炭素の分子設計戦略に焦点を当てることで、太陽光を利用して、従来報告されている触媒では不可能であった水と空気中の酸素から常温常圧で過酸化水素を高収率で生成する高性能光触媒を開発しました。
今後、本研究成果は、高価な試薬や高温高圧などの厳しい反応条件を必要としない太陽光のみで過酸化水素を連続的に製造することが可能な、“持続可能性”のある革新的な製造プロセスの構築に寄与するものと考えられます。
なお、本研究成果は、英国科学雑誌「Nature Catalysis(インパクトファクター:30.47)」(2021年5月21日)に掲載されました。
*1 エネルギーキャリア:気体のままでは貯蔵や長距離輸送の効率が低い水素を、過酸化水素やアンモニアなどの液体にして効率的に貯蔵?運搬する方法。過酸化水素は次世代燃料電池の燃料となり、アンモニアは分解すると窒素と水素になる。
論文の詳細情報
タイトル: Atomically Dispersed Antimony on Carbon Nitride for the Artificial Photosynthesis of Hydrogen Peroxide
著者名: Zhenyuan Teng, Qitao Zhang, Hongbin Yang, Kosaku Kato, Wenjuan Yang, Ying-Rui Lu, Sixiao Liu, Chengyin Wang, Akira Yamakata, Chenliang Su, Bin Liu, and Teruhisa Ohno.
雑誌: Nature Catalysis
DOI: 10.1038/s41929-021-00605-1
※ 本研究は JSPS科研費20H02847 などの支援を受けて行われたものです。
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