【研究成果のポイント】
◆神経細胞の発火信号に類似した自発的スパイク信号の発生を可能にする、分子/カーボンナノチューブ※1複合ネットワークデバイスの作製に成功した
◆これまでニューロモルフィック※2チップの開発において、自発的なスパイク信号の発生とその伝達の機能はまだ十分利用されていなかった
◆本研究の結果は、ナノ分子材料※3を用いて脳機能の一部を再現したと言え、将来のニューロモルフィックデバイス開発に大きく寄与すると期待
田中啓文(九州工業大学大学院生命体工学研究科教授) 及び小川琢治(大阪大学大学院理学研究科教授)は、カーボンナノチューブ(CNT)とポリオキソメタレート分子(POM)※4の高密度ネットワークデバイスを作製し、神経細胞(ニューロン) ※5のスパイク発火に似たインパルス状の信号を発生させることに成功しました。また、赤井恵(大阪大学大学院工学研究科助教)及び浅井哲也(北海道大学大学院情報科学研究科教授)らのグループとの共同研究において、特殊な電荷貯め込み特性を持ったランダムネットワークモデルのシミュレーション計算からスパイク発火の機構を提案し、これらの機能が未来の人工知能や超高速計算をもたらすニューロモルフィックデバイスを構成する材料として期待出来ることを示しました。
脳の構造や機能を真似た回路網を人工的に再現しようとするニューロモルフィックチップの開発において、自発的なスパイク信号の発生とその伝達の機能はまだ十分利用されていませんでした。本研究の結果は、ナノ分子材料によって小型の自発的スパイク信号を発生する独立デバイスの作製を可能にしただけでなく、分子を繋ぐ乱雑なネットワーク自体が脳型人工知能となる可能性を示しており、ニューロモルフィック工学分野の発展に大きく寄与することが期待出来ます。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に、2018年7 月12日(木)18 時(日本時間)に公開されます。
【用語解説】
※1 カーボンナノチューブ(CNT)
炭素によって作られる六員環ネットワークシート(グラフェン)が単層あるいは多層の同軸管状になった物質。半導体特性と金属特性を持つものがあり、特に単層のものはシングルウォールナノチューブ(SWNT) と呼ばれる。
※2 ニューロモルフィック(neuromorphic)
-morphicとは ~の形態を持つという意味の接尾辞。即ち「神経細胞の形状を持ったもの」を意味する。神経細胞の形状そのものや機能、神経回路網の構造を模倣しようとするものに対して広く使われている。日本語としては「脳型」「脳機能模倣」「生体様」等、一意的には対応しておらず、本稿のようにカタカナ語で使われることも多い。
※3 ナノ分子材料
少なくとも一辺の長さが 1~100nm の大きさを持つ材料。次世代の産業基盤技術として、社会に大きな便益をもたらすことが期待されており、多様な分野で利用が進んでいる。カーボンナノチューブやグラフェンなどの炭素系のもの、銀、二酸化チタン、酸化亜鉛などの金属系のものが有名である。
※4 ポリオキソメタレート分子(POM)
名前の「Poly-」は多数、「-oxo-(オキソ)」は酸素、「-metallate」は金属酸を意味し、多数の金属と酸素原子が結合した化合物で、ポリ酸とも呼ばれる。正四面体や正八面体の多面体構造の様々な美しい立体構造をとる。形状や中心金属、酸素以外の配位子の導入によって様々な特徴的性質を持つ。抗癌剤にも利用される。
※5 神経細胞(ニューロン)
脳の構成要素の一つ(図1左下模式図に示すような神経膜からなる細胞体)。他の神経細胞のスパイクを受ける樹状突起と、自身のスパイクを別のニューロンに送る軸索を持つ。それらが複雑に連結された神経回路網におけるスパイクの発生と伝達が脳の高い情報処理能力の一つの要となっている。
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大学院生命体工学研究科 教授 田中 啓文
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E-mail: tanaka*brain.kyutech.ac.jp
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