2016年4月、教養教育院が設置され、教養教育院を核として教養教育の改革が進められています。2016年6月、3部局(工学研究院、情報工学研究院、生命体工学研究科)から教養教育院に対する要望事項が纏められ、教育高度化推進機構長から教養教育院に「グローバル?コンピテンシーを涵養するための教養教育について」の検討依頼が行われました。これを受けて、教養養育院では、「コア?カリキュラム」「語学教育ワーキング」など、5つのワーキング?グループを設置して検討を行い、9月に回答を作成して教育高度化推進機構長に提出しました。
この「グローバル?コンピテンシーを涵養するための教養教育について」の回答については、全文を資料として掲載しています。
ここでは、主な改革の内容について紹介します。
(1)全学共通教養教育カリキュラムの実施
2015年度までは、教養教育を担当する教員は、工学研究院あるいは情報工学研究院の人間科学系に所属して工学部あるいは情報工学部の教養教育の授業を担当していました。したがって、工学研究院の人間科学系教員は、工学部の教養教育のみを担当し、情報工学部の教養の授業を担当することはありませんでした。逆に、情報工学部の人間科学系教員は、情報工学部の教養教育のみを担当し、工学部の教養の授業を担当することはありませんでした。また、同じ科目名の講義が両学部で開講されていたとしても、工学部と情報工学部では、その授業内容は異なっていました。
図1の左(改革前)に示すように、工学部の学生は工学部の教養科目、情報工学部の学生は情報工学部の教養科目のみ履修することができ、互いに他学部の教養科目を履修することはできませんでした。この度の教養教育改革の結果、図1の右(改革後)に示すように、全学で教養教育のカリキュラムを統一した結果、工学部および情報工学部で共通の授業科目を提供することになり、工学部の学生は、工学部で開講する教養科目はもちろん、情報工学部で開講する教養科目も履修することが可能になりました。また、情報工学部の学生も同様に、情報工学部で開講する教養科目はもちろん、工学部で開講する教養科目も履修することが可能になりました。
この全学共通の教養教育カリキュラムは、2017年度から実施する。2017年度の学生便覧に掲載する教養教育院の教育課程の説明と卒業要件単位を資料1に掲載します。また、履修課程表(人文社会系科目および言語系科目)を資料2に掲載します。2017年度は、人文社会系?言語系のすべての科目を戸畑?飯塚で共通に開講することはできないが、多くの科目は戸畑?飯塚共通で開講することにしています。
(2)6年間一貫の教養教育
日本の大学では、学部入学後、初年次を中心に2年次までに必要な教養教育科目をすべて履修させ、3年次以降は、教養科目は履修させずに専門教育に集中させる教育が一般的です。本学においても、図2の左(改革前)に示すように、1?2年次を中心に教養科目を開設していました。
しかし、前述したように、グローバル社会で活躍する技術者を育成するためには、学生のグローバル社会に対する理解や言語コミュニケーション能力が、卒業(修了)の時点で最も高いレベルに到達するよう教育課程を工夫する必要があります。そこで、図2の右(改革後)に示すように、入学から学部(大学院)卒業まで、継続して教養科目を履修することができるようにカリキュラムを編成しました。なお、具体的な開講科目と年度に関しては、履修課程表(資料2)を参照ください。
6年一貫のGE養成コースを履修する学生は、学部で「グローバル教養科目」を2単位、「語学科目」を1単位、さらに大学院で「上級グローバル教養科目」を2単位、「上級語学科目」を1単位修得することが求められており、これまで開講していた大学院の教養科目の大半を改編し、資料3に示すように、数多くの大学院共通教養科目(大学院リベラルアーツ科目+上級語学科目)を新設します。GE養成コースを履修する学生(2017年度、1期生が4年生)は、2017年度から早期に大学院の科目を履修することが可能になりました。そのため、資料3に示すように、2017年度(H29年度)から3つの大学院で多くの大学院教養科目を開講します。
(3)コア?カリキュラムの策定
2016年6月の「グローバル?コンピテンシーを涵養するための教養教育について」の依頼を受けて、2017年度からの教養教育に関する卒業要件単位は合計20単位としたため、2016年度の教養科目の卒業要件単位数(工学部22単位、情報工学部30単位)と比較すると減少することになります。
そこで、資料2に示すように各科目の内容を精選し、教養教育院で開講する科目は、全科目8週1単位で開講することにしました。このことにより、グローバル教養科目や語学の開設科目の種類やレベル設定を増やしつつ、卒業要件単位を減少させることができるように工夫しました。また、全科目8週1単位を実現することで、教養教育院は、2017年度から完全クォーター制に対応するカリキュラムとなりました。
なお、卒業要件単位20単位の内訳は、資料1に示すように、人文社会系が10単位(人文社会科目から6単位+グローバル教養科目から4単位)、言語系が10単位(いずれも、選択必修英語科目から6単位+初修外国語科目(ドイツ語、中国語、フランス語、韓国語)から2単位+いずれかの科目から2単位)です。
(4)人文社会系教育の改革
学部、大学院の授業ともに、GEC教育の推進に寄与するべくグローバル教養に関わる多様な科目を新設し、より多くの科目から選択することができるよう工夫しました。学部のグローバル教養科目では「多様な文化と社会の理解」、「国際関係の理解」、「グローバル化と日本」の3分野別に多くの科目を新設し合計17科目を設けました。また、人文社会系科目では、「人間への洞察」、「多文化との共生」、「社会の理解」、「心身の理解」の4分野にわたり37科目を設けました。保健体育の科目に関しては、実技科目を含めて「心身の理解」の分野の選択必修科目(座学科目1単位×1科目+実技科目0.5単位×2科目)として開講することにしました。さらに、グローバル社会を題材にした教育内容を中心に16科目の人文社会系選択科目を設けました。
人文社会系科目及びグローバル教養科目は1~3年次に、人文社会系選択科目は、2~4年次まで履修することができるようにして、入学から卒業まで継続的に人文社会系の授業科目を履修することができるようカリキュラムを設計しています。
大学院での人文社会科目では、大学院リベラルアーツ科目として下記の4区分別に、高度グローバル教養科目を充実させました。
ア.持続可能な社会?開発に向けた現状と課題の探求
イ.近代化の過程と現代的課題の探求
ウ.グローバリゼーション理解と課題の探求
エ.地域性理解と課題の探求
なお、資料として掲載している「グローバル?コンピテンシーを涵養するための教養教育について」の「コア?カリキュラムの策定について(人文社会系)」において、人文社会系の教育改革の詳細を報告しているのでご覧ください。
(5)言語系教育の改革
本学の入学選抜試験においては、英語の個別学力試験を実施していないこともあり、英語の能力が多様な学生が入学してまいります。大学入学段階で、英語についてはかなりの能力差があるため、同じレベルのクラスに、英語能力がかなり異なる学生が一緒に学ぶ場合が多く、入学後の英語学習において、いわゆる「吹きこぼれ」と「落ちこぼれ」が生じやすいクラス編成になっていました。
情報工学部では、これまで、英語の同じ授業科目を5段階のレベルに分けて実施していました。しかしながら、同一科目であることから、基本的には同一の試験が求められるため、工夫が施されてはいたが評価に課題がありました。
そこで、今回の教養教育改革を機に、全学で6年一貫の習熟度別クラス編成を行い、図3に示すように、TOEICスコアを基準に10段階の英語能力のクラスに分け、能力に応じたクラスで授業を受けることができるようにカリキュラムを全面改訂しました。
本学入学時のオリエンテーションの時期に全入学生がTOEICを受験し、そのスコアに応じて、第2クォーターから習熟度別に分かれたクラス編成で授業を実施します。さらに、第3クォーターからは、初級者、中級者、上級者の3レベルで履修するクラスを分けて授業を実施します。したがって、初級者は、そのまま学び続けると2年修了までにⅥレベルの英語能力を習得することができます。同様に中級者は、2年修了までⅦレベルまで、また上級者は、2年次終了までにⅧレベルまで英語能力を習得することができます。また、初級者であっても、頑張ってTOEICのスコアを伸ばせば、習熟度が高いクラスへと飛び級することが可能になります。
このように、習熟度別クラス編成を実施することによって、英語の習熟が低い学生も高い学生も、自分に合った習熟のレベルで授業を受けることができ、個人の英語能力の上達や学習意識の向上が期待できます。
また、新修外国語(第二外国語)は、ドイツ語、中国語、フランス語、韓国語(戸畑開講のみ)から選択して履修することができます。英語学習とは異なり、GCEの「多様な文化の受容」の要素を育成する観点から、日常的な表現の理解や実践を中心に学修することになります。
なお、資料として掲載している「グローバル?コンピテンシーを涵養するための教養教育について」の「コア?カリキュラムの策定について(言語系)」において、語学教育改革の詳細を報告しているのでご覧ください。
(6)高次アクティブ?ラーニング
教養教育院に設置した「高次アクティブ?ラーニング」科目検討ワーキング?グループでは、学習教育センターと協働して、本学におけるアクティブ?ラーニングの質を高め、より高次のアクティブ?ラーニングに発展させるために行うべき授業開発?改善の方向性を検討しました。「目標創出型アクティブ?ラーニング」および「ディープ?ラーニング」(AIの深層学習とは異なり、深いアクティブ?ラーニングを示す概念)を本学の「高次アクティブ?ラーニング」と定義し、授業展開?開発にあたっての留意点( 科目設計?実施のポイント)等を示しています。
資料として掲載している「グローバル?コンピテンシーを涵養するための教養教育について」の「高次のアクティブ?ラーニング科目の開設」において検討の詳細を報告しています。
語学教育を含め、教養教育院の開講科目の中には、アクティブ?ラーニングの形態で実施する授業が少なくありません。今後、さらに高次のアクティブ?ラーニングへと授業の質を高めていく取り組みを増やしてまいります。
教養教育院が開講する各授業は、基本的には、すべてのキャンパスで授業を実施する必要があります。キャンパス間の移動に時間がかかるため、他キャンパスでの開講を諦めざるを得ない科目もあります。そこで、遠隔TV会議システムや学習管理システム(Moodle)を利用するなど、教員がキャンパス間を移動することなくICTを活用して授業を実施することができるよう、ICTを活用した教育環境を整備し、必要に応じて遠隔講義実施のための教員研修を実施いたします。
(7)留学生との協働学習
GE養成コースを修了するには、「Study abroad」(海外研修)あるいは「Work abroad」(海外インターンシプ)などのGCE実践的科目を1単位以上修得する必要があります。経済的理由等で渡航が困難な場合でも、GCE実践的科目を修得することができるように、本学に在籍する留学生や海外からの短期留学生との協働学習を行う科目「国際協働演習」の授業計画を、教養教育院と学習教育センターが協働で開発しました。グローバル経済の進展で、今後さらに多くの企業が海外に生産拠点を置き、海外出張あるいは海外に駐留して異文化の人々と協働して働く機会は確実に増えていくことになります。一方で、国内の職場で働きながら、外国から来た人々と協働で仕事を遂行していく機会も同様に増えてくると予想されます。このような現状を考えると、「国際協働演習」で学ばせる意義は大きいと考えます。
この留学生との協働学習についても、資料として掲載している「グローバル?コンピテンシーを涵養するための教養教育について」の「海外派遣の事前?事後学習、留学生との協働学習の単位化について」で、検討の詳細を報告しているのでご覧ください。